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― トイレが僕の食堂だった ―




 大学で華々しいデビューを飾るはずだった僕にとって、「現実」に突きつけられた問題は、実に悲惨なものだった。
“友達が出来ない”
 想像もしなかった事態が、日を追うごとに深刻になっていく。一人だと思われたくない。暗いヤツに見られたくない。授業時間はどうにかやり過ごせたが、困ったのはランチタイムだった。
 食堂へ行けば、一人ぼっちの自分が、多くの視線にさらされることになる。「みんなの広場」には、文字通りみんなが集まって、ワイワイガヤガヤやっている。
 行き場を失った僕は、用を足したトイレでそのまま弁当箱のフタを開けることになった。しかしこれが思いの外、非常に落ち着く。最高の居場所を見つけた僕はその後、味を占めたように毎日洋式トイレに通った。

 『孤独の肖像』(水声社)というノンフィクション本には、七人の孤独な若者たちが登場する。その中に、僕とまったく同じ振舞いをしている人間がいた。
“トイレの中で弁当を味わう男”
 嬉しくなった僕はどんどん先を読み進んだ。彼はしかし、そのまま終わってしまった訳ではない。
 弁当と向き合うことで自分の弱さと向き合い続けた彼はその中から、「自らを救う力」を見出していくのだ。つまりこの本は、負け犬で終わらなかった人間たちの、戦いの記録集なのである。
 僕の話に戻ろう。
 その日も僕はいつものように、トイレで飯を食べていた。隣から漏れる放屁の音が、最近ヤケに耳につく。
 ここはウンコをする場所だ。大学に来てからのザマを見ろ。逃げてばかりで何にもしない。もうヤメだ、こんなことは。
 僕は便所のドアを押し開け、人でごった返す食堂へと、一人乗り込んでいった。そこで弁当箱をどかんと広げ、チキンカツにかぶりついていった、あの気持ちで、僕はずっとやっていける。
 大学二年、友達ゼロ。

 

 

 


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