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― 読売ジャイアンツ・川井昌弘の “ツーストライク” ―



 イチロー、新庄、佐々木、野茂……、華やかなメジャーリーグの話題に押されがちな日本のプロ野球。各選手のスピードやパワー、球場の雰囲気ひとつとってみても、やはり派手さが違う。
 深夜番組の『プロ野球ニュース』などを見ていれば、そのスケールの差に肩身の狭い思いさえしてしまうが、注意していればこのところ、地味ながらよくハイライトシーンで見かけるようになった選手がいる。
 読売ジャイアンツの川相昌弘である。

 ご存知の人も多いと思うが、彼はかつて「バント職人」といわれたほどの送りバントの名手で、塁上にランナーさえいれば、必ずと言っていいほどバントを仕掛けていた。現役生活18年のうち積み重ねたバントの数481、1991年に記録した66の犠打数はともに日本記録であり、打率こそ高くなかったが、ゴールデンクラブ賞を6回獲得した堅実な守備とあわせ、「2番・ショート」は文句なしに彼のものだった。

 しかし最近のジャイアンツはといえば、ホームランの出ない日はないというくらい、毎日のように誰かが一発を放ち、松井に清原、高橋に江藤と、1番打者でさえ長打を狙える打線に、強打者と恐れられる大砲マルティネスまでがベンチを温めているほどだ。
 この、もはやバントのいらなくなった今のジャイアンツにおいて、「バントの名手」である川相がスタメン出場できるはずはなく、グラウンド内で彼の姿を目にする機会は、圧倒的に少なくなった。
 しかしゲーム中盤、流れを変えたい場面やチャンスの局面において、最近代打で起用されることが多いのは、その川相である。気迫あふれる顔つきに、鋭いスイング。そう、現在の彼はひたすら「バッティング」にと徹しているのである。
 そんな川相に興味をもった僕は、すこし彼の野球人生を知りたくなった。

 川相という選手は僕自身、大の野球ファンだった子どもの頃から、そんなに好きな選手ではなかった。小柄な体でバットを短く持ち、何かといえばバントをする彼のプレーは面白味がなかったし、評論家から絶賛されていた守備も、華麗というわりには華がなかった。
 その栄養分のない顔つきとヒゲ跡の残る老け顔に、「オジン」とアダ名されていた彼の存在は、原や松井というスター選手が憧れだった僕にとっても、やはりオジンでしかなかった。
 だが当の川相は、入団当初からたいへんな苦労人だったらしく、甲子園のエースとしてドラフト4位でジャイアンツに入団、内野手に転向したはよかったが、プロ入り後5年間は数字という成績を残していない。
「川相は入団当初、バントが下手だったんですよ」と語る関係者は多い。
 彼は、自分の足りないパワーや体格を補うため、打撃練習の3分の2という時間を、ひたすらバント練習へと注ぎ込んだのだという。その甲斐あって、89年には見事レギュラーを獲得、翌年には早くもシーズン最多犠打の日本記録を打ち立て、チームの勝利に貢献するようになる。

 その、もはや彼のすべてだと言ってもいいバントを奪われてしまった川相にとって、生き残りをかけたのは、昨年1割9分という成績に終わってしまった「バッティング」だった。各チームから次々と加入してくる強打者たちを見ながら、川相は自分を必要とされなくなる前に、必死の思いで練習を続けたのだろう。
 そしてペナントレースも中盤戦を迎えた今年6月、川相の打率はじつに3割5分へと跳ね上がっているのである。

 先日、98年5月以来という、3年ぶりの代打ホームランを放ったベテランの川相は、
「自分でもビックリしたよ。広い球場だし、フェンス直撃ぐらいだと思って一生懸命走ったよ」
 と高校球児のようにさわやかなコメントを残し、その1ヶ月後には、同じく代打出場のヤクルト戦で、史上132人目となる1500試合出場を記録した。
 かつてバントの名手だった川相は今、チャンスの場面で必ずヒットを打つ打者として活躍し、評論家のあいだでは、いつのまにか「勝負強いバッター」として定着し始めている。
 しかしその大事な場面で見せる勝負強さや集中力、それこそが、“これを失敗すれば後がない”という戦いを勝ち抜いてきた男だけがもつ、無数のバントの賜物であると、僕は思う。

 

 

 

 


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